AppleとOpenAIの営業秘密訴訟が、また一段階エスカレートしています。Appleが8月3日(月)付でカリフォルニア北部地区連邦裁判所に仮差止め命令(preliminary injunction)を求める申立てを行い、それに対してOpenAIが公式ブログでチャット履歴やメールのやり取りまで公開して反論するという、かなり異例の展開になっているんですよね。TechCrunch・Forbes・Yahoo Financeの報道を突き合わせて、7月の提訴から今の状況までを整理してみます。
今わかっていること
Appleは仮差止め命令の申立てと合わせて、証拠開示を早めるための「迅速開示(expedited discovery)」も求めています。対象は、被告として名前が挙がっているOpenAIのシニアシステムエンジニアChang Liu氏、Chief Hardware OfficerのTang Yew Tan氏、そしてOpenAI本体とその財団、Jony Ive氏が共同創業したデバイススタートアップio。Yahoo Financeによれば、Liu・Tan両氏に加えてOpenAI従業員のYu-Ting Peng氏、名前の明かされていないもう1人の元Apple社員、さらにOpenAIとioの法人代表者への証言録取も要求しているとのことです。
TechCrunchが報じているのは、Appleが調査を継続する中で、LiuとTanの2人以外にも11人の元Apple社員が本件の証人あるいは関与者である可能性が浮上したという点。申立て文書には、「別の元Apple社員が、Peng氏のOpenAI面接前にLiu氏とPeng氏に会い、未発表製品に関するApple社内の機密情報について話し合っていたようだ」「別の元Apple社員は、OpenAIでの面接前に未発表Apple製品に関する機密文書のスクリーンショットを撮っていた」といった具体的な記述があるそうです。さらに、Appleが提訴した後になって、OpenAIで働く複数の元Apple社員がApple支給の業務端末を返却したいと連絡してきたとも記載されています。
これに対してOpenAIは公式ブログで、「Appleの仮差止め請求は誤った情報に基づいており、我々は彼らの営業秘密を持っていないし欲しくもないので、そもそも不要だ」と主張しました。Forbesによれば、この投稿にはiMessageのやり取りやメールの抜粋まで添付されているとのこと。文面はAppleを「最も偉大な企業のひとつ」と持ち上げつつ、今回の訴訟自体は「不注意で、攻撃的で、妙に個人攻撃じみている」と切り返す内容だったそうです。
具体的な反論としては、Appleの外部弁護士が「似た姓の2人を取り違えて別人にメールを送ってしまった」というミスがあり、それを指摘されるまで認めなかったこと。Liu氏が退職後にApple社内情報にアクセスできた件についても、実はApple側の社員がLiu氏に「情報の在り処を教えてほしい」と連絡していたことを、Apple自身が今になって認めているとOpenAIは主張しています。加えて、退職者に「残留アクセス権」が残っていたのはApple側のセキュリティ管理の不備であり、Appleはその責任を押し付けようとしている、とも書いているようです。Tan氏についても、自分のチームには「他社の機密情報を欲しがるな、使うな」と常々伝えていたと反論しています。
Yahoo Financeの記事では、Appleが訴訟提起後にOpenAIへ書簡を送り、仮差止め申立てを見送る条件として5項目を提示していたことも書かれています。OpenAIはそのうち「今後Appleの情報にアクセス・勧誘しない」「既存のアクセス・利用・勧誘行為を停止する」「関連証拠を保全する」の3つには同意した一方、Apple側の弁護士やフォレンジック専門家がOpenAIの端末・ストレージ・アカウントを直接調査することは拒否したそうです。これが結局、Appleが仮差止めに踏み切った理由のひとつになっています。
これまでの経緯
AppleとOpenAIは2024年に大々的な提携を発表し、ChatGPTがiPhoneのOSに統合されました。当時はサム・アルトマン氏がApple本社を訪れるほどの蜜月ぶりだったとCNBCは伝えています。ところがOpenAIがハードウェア事業への参入を発表し、Jony Ive氏の会社io Productsを約64億ドル(CNBCの表記。TechCrunchの記事では約65億ドルとされていて、金額に若干のずれがあります)で買収したあたりから関係が冷え込んだようです。今秋登場予定のSiriのアップデートも、OpenAIではなくGoogleのGemini系モデルをベースにするとCNBCは報じています。
そして7月10日(金)、Appleは正式にOpenAIを提訴。41ページに及ぶ訴状には、Liu氏がPeng氏に送ったとされる「LOL、ネットワークストレージにアクセスできるの見つけた、笑える」というメッセージと、Peng氏の「準備できてる」という返信、Liu氏が退職直後に送ったとされる「まだ別のパソコンを持ってる」というテキストなど、かなり生々しいやり取りが引用されていました。Tan氏がApple在籍中のOpenAI応募者に「実物の部品」やCADデータ、試作品を面接に持参させていたという主張や、退職時の「ウォークアウト」処分を避けるための立ち回り方をOpenAIが指南していたという主張もあります。訴状は、OpenAIに現在在籍する元Apple社員は400人を超えるとも指摘しているそうです。この時点でOpenAI側はCNBCに対し「他社の営業秘密には関心がない」とだけコメントしていました。
ちなみにこの提訴は、OpenAIがイーロン・マスク氏率いるxAI関連の別訴訟で勝訴したわずか2カ月後の出来事だったとCNBCは付け加えています。そして今回、8月3〜4日にかけてAppleが仮差止めと迅速開示を申し立て、OpenAIが公式ブログで正面から反論するという流れに至りました。
海外の反応
Hacker Newsでは「Apple is getting this wrong」というスレッドが272ポイントを集めていました。OpenAIの反論ブログに対する反応は、賛否どちらの方向にも懐疑的な声が目立ちます。
いいね、また都合よく切り取られた情報が出てきたな。訴状にある証拠のかなりの部分には触れられていないけど、ここで示されているものはそれなりに疑いの余地を投げかけている。ディスカバリー(証拠開示)が楽しみだ。裁判まで進んでほしい。(dannyw)
裁判官がこれを裁判前に公表することを好意的に見るとは思えない。法廷で戦うべき話を、こんな形でやるべきじゃない。世論には勝てても裁判には負けることがある。(cube00)
公開されたiMessageのやり取りを見て気になったのは、あの人物がApple在籍時と同じiCloudアカウントをOpenAIでも使っているように見えること。個人アカウントを使い回してるのか?両社ともなぜそれを許してるんだ、素人くさすぎる。退職時にはアカウントを切り替えてロックするものだと思っていた。(prmoustache)
訴訟の中身はさておき、これだけ感情的な言い分を公式の会社ブログに載せるのは奇妙に感じる。普通、係争中の訴訟について企業は法廷文書の外で多くを語らないものじゃないか。タイトルからしてどこか素人っぽい。(gr_norm)
このブログ、Appleの核心的な主張にはほとんど答えていない。OpenAIは完全に詰んでる。(pertymcpert)
ケイの一言
正直、訴訟の中身そのものより「公式ブログでチャット履歴まで晒して反論する」というOpenAIのやり方に驚いています。企業法務としてはかなり異例な動きで、HNのコメントが軒並み「なんでこんなことを」と戸惑っているのも納得できるんですよね。prmoustacheさんが指摘してた、iCloudアカウントを使い回してたっぽいという話も地味に気になります。両社ともセキュリティ大手なのに、その辺りの管理がずさんだったとしたら皮肉な話だなと。仮差止めが認められるかどうかは今回のソースだけだと判断材料が足りないので、続報待ちです。