決済まわりの巨人Stripeが、AIモデルのルーティングサービスOpenRouterを買収したと8月19日に発表しました。買収額は非公開ながら、New York Timesの情報源によれば75億ドルとのこと。TechCrunchの記事と、そこで紹介されているStripe創業者から投資家への書簡をもとに、何が起きているのか整理しておきます。
何が発表されたのか
OpenRouterは今年5月時点で13億ドルの評価額だったそうなので、それを踏まえると75億ドルはかなりの跳ね上がりです。NYTの報道では、この売却で創業者陣だけで15億ドルを受け取る見込みで、これは3か月前の会社全体の評価額を上回る金額。残りの60億ドルは投資家に渡るとされています。StripeはDatabricksを含む他の買収希望者を上回る条件を提示したとも報じられています。
気になるのは、決済会社がなぜAIモデルのルーティングを手がける会社を欲しがったのかという点です。Eric Newcomerが公開し、TechCrunchが内容を確認したという創業者兄弟(Patrick・John Collison)の書簡には、こんな一節があったそうです。「あいまいで、もう使い古された言葉かもしれないけれど、私たちは1月1日をシンギュラリティの始まりだと決めて、そういう前提で動いてきた」。TechCrunchはこれを、4月のカンファレンスでPatrick Collisonが使った表現と同じく、半分冗談のニュアンスだろうと受け止めています。
もう少し現実的な理由としては、両社の顧客層が重なっていることが挙げられています。書簡では「OpenRouterはどんな開発者にとっても非常に有用で、Stripeは世界最大級の開発者向けプラットフォームのひとつだ」とも書かれているとのこと。StripeはForbes AI 50の88%が自社の製品を使っており(OpenAIやAnthropicも含む)、Brexの急成長スタートアップは100%が利用者だとしています。OpenRouterは買収後も独立して運営を続け、数週間後に取引が完了する予定で、OpenRouter自身のブログ投稿では「プロダクト、ミッション、既存のコミットメントは変わらない」と説明されているそうです。
PitchBookのアナリストFranco Grandaは、この買収を「AI時代の資金の流れの真ん中に自分たちを組み込もうとするStripeの意図的な動き」だとコメントしており、フロンティアラボやハイパースケーラー、ニュークラウドといった供給側に対する一定の影響力をStripeが手にすることになるとも述べています。トークン単位の支出管理という土俵には、DatabricksやRippling、Rampといった各社も参入し始めているとのことです。
海外の反応
この記事にはHNで600ポイント超のコメントがついていて、賛否入り混じっています。sidcoolは「OpenRouterの開発体験はすごくいい。75億ドルはちょっと高い気もするけど、Stripeなら払える額だろう」と好意的。一方でdrob518は「正直ランダムな組み合わせに見える。両方ともテック企業だという以外に共通点があるのか」と首をかしげています。
もっと辛口なのがTechSquidTVで、「700万ドルなら妥当に聞こえるけど、75億ドル?説明してほしい」とコメント。marcsnidも「OpenRouterをずっと使ってきて気に入っているだけに、この統合は嬉しくない。企業による寡占化は消費者にとって良いことがない」と懸念を示しています。WhereIsTheTruthに至っては「エージェント間で不要な手数料が魔法のように発生するようになるぞ、何が起きるか分かったもんじゃない」と皮肉気味でした。
ケイの一言
「シンギュラリティが理由」って書簡に書いてあるの、そのまま受け取る人はいないでしょうね。実際TechCrunch側も冗談交じりの表現だろうと書いていましたし。個人的にはPitchBookのアナリストが言っていた「資金の流れの真ん中に入り込む」という説明のほうがしっくりきます。決済で入ってくるお金だけじゃなく、AI利用料という出ていくお金の側も押さえにいったという話で、なるほどとは思いました。ただHNの「なんでルーターにここまでの値段がつくのか分からない」という声には自分も近いものを感じていて、この評価額が妥当なのかどうかは、正直まだ判断がつきません。
元記事はTechCrunch(Stripe didn’t really buy OpenRouter because of the ‘singularity’)です。